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中国人のお名前【その2】

それでは実際の翻訳では,どのようなプロセスをたどるのでしょうか?

翻訳のプロセス

1.名前に使用されている漢字(簡体字)の本字(繁体字)を調べる。

私は基本的には『現代漢語詞典』を使用していますが,『辞源』『漢語大字典』などには一覧表として記載されています。

 ここでまず〔問題1〕が発生します。

〔問題1〕そもそも簡体字とは,複雑な漢字を簡単にするべく考えられたのですが,その過程で複数の漢字を一つの漢字で代用して表現している場合があります(漢字の数が少なかった昔に戻ったとも考えられます)。それゆえ,「そのオリジナルの漢字は何か」を見つけ出す必要があります。

例えば,簡体字「谷」は,繁体字「谷」と「穀」の意味で使用されているため,どちらとして使われているかを判断する必要があります(漢字が少なかった昔には,「谷」は「穀」の代わりとして使用されていました)。本人か両親に聞かないと,どういう意図で命名したのか真実は不明ですね?! 

2.1で調べた繁体字に相当する日本漢字を決定します。

ここで〔問題2〕が生じます。

〔問題2〕現在我々が使用している漢字にも,中国と同様に,本来の漢字の字体を簡単にした「常用漢字」「教育漢字」があり,さらには国語審議会による「同音の書きかえ」というものが存在しています。

 「常用漢字」とは?

昭和56年10月1日内閣告示1号,昭和56年3月23日の国語審議会による常用漢字表答申書によると,常用漢字表には「法令・公用文書,新聞・雑誌・放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである」とあり,さらにその次に「この表は,科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」また「この表は,固有名詞を対象とするものではない」とあります。

これによると,『人名の表記に関しては「常用漢字」を使用する必要はない』と解釈することができるようです。

 「同音の書きかえ」とは?

 これは名前の翻訳では直接的な関係ないのですが,参考までに記載しておきます。

 国語審議会報告による「同音の漢字によるかきかえ」(昭和31年)により,往来の漢字の表記法が変更されることになりました。たとえば,「智慧」は「知恵」と表記されるようになり(「智慧」と入力しようとすると,PCだと「常用外」と表示されます),一見したところ「智」と「知」,および「恵」と「慧」は同じ漢字であるかのような錯覚をしますが,実は全く異なる二つの漢字なのです。

 中医学の翻訳でよく遭遇するケースとして, 豊臣秀吉の「聚楽第」で使用されている 「聚」があります。「積聚」などですね。しかし, この「書き換え」により「聚落」は「集落」と標記するようになったため,「聚」には「集」の意味があることが解らなくなってしまいました。

3.2で決定した日本漢字の読みを「漢和辞典」で決定する。

 漢字の音読みについて

漢和辞典で漢字を調べてみましょう。漢やら呉やらとか書いてあるのが目につきます。

これは,それぞれ漢音・呉音のことで,遣唐使や遣隋使が漢の時代,呉の時代に発音されていた中国語音を持ち帰った中国語に基づいて作られた日本語音のことです。当初は色々な漢字が増えて良かったのでしょうが,時代が経つにつれて漢音と呉音,さらには唐音,宋音などがグチャグチャに入り込み,混乱の様を呈するようになりました。

そこで日本では793年(延暦2年)に,漢音読みを正式とする命令が発せられました。以来,現在まで漢音読みとすることが普通となっているのです。ところが仏教の聖山(天台宗など)は主に浙江省(呉国の領土であった)にあったため,最澄たちが日本に伝えた仏教用語には呉音が広く残っており,仏教関連用語については呉音を使用するのが一般的となっています。

このことから推測できるように,一般に二文字以上の漢字を音読みにする場合,「最初の字を漢音で読めば以下は全て漢音で読み,最初の字を呉音で読めば以下は呉音で読む」ことが必要になります。呉の時代と漢の時代の音が同時に使用されてはいけません。「鈴木」さんは「スズキ」さんであり,「スズモク」さんではないのです。

実際の翻訳では,これが面倒くさい原因となっています。

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