当院の患者様より,「最近コオロギ食が取り上げられているけれど,中医的にはコオロギにはどのような功能があるのでしょうか?」というお問い合わせをいただきました。そこで南京留学中に購入した「中華本草」から,一部分を翻訳してご紹介いたします。
[名称] 蟋蟀(漢音では「シッシュツ」と読みます)。
ちなみに「キリギリス」の意味でも使用されます。
「蛬」「蜻蛚」「蛀孫」「吟蛩」「将軍」「世鳴虫」などなど多数の別名があります。
清代以前には薬物としての記載はみられません。
[採集加工] 夏~秋に捕捉し,沸騰水で煮沸した後,日干しまたは焙って乾燥させる。
[化学成分] 蟋蟀には4.86%の脂肪酸が含まれており,そのうちパルミチン酸22.46%,ステアリン酸5.97%,オレイン酸29.32%,リノール酸24.20%,リノレン酸2.88%,その他未鑑定の酸15.24%。
[薬理] 1.解熱作用
2.膀胱括約筋の興奮作用ならびに輸尿管痙攣の緩解作用
[炮製] 原薬材から雑質と灰屑を取り除く。
[薬性] 味は辛・咸,性は温,小毒。帰経は膀胱経・小腸経。
1.『薬性考』:辛・咸,温。
2.『本草用法研究』:有毒。膀胱・大・小腸三経に入る。
[効能と主治] 利水消腫。癃閉,水腫,腹水,小児遺尿を主治する。
[用法用量] 内服:4~6匹を煎じて飲む。1~3匹を研いで粉末状とする。
[使用上の注意] 妊婦は禁忌。
「有毒」の生薬といえどもきちんとした炮製がなされていれば,その毒性は軽減または消失し,生薬としての機能を発揮するはずです。例えば生では有毒である「トリカブトの塊根」は,しっかりと炮製することにより「附子」といった生薬に生まれ変わります。
[結論] 清代以前には生薬として使用されていた記載は見当たりません。現代中国では,小便不通,高齢者の尿閉,小児の遺尿などに使用されているようです。
飽食の現代日本で,あえてコオロギを食する必要があるのでしょうか?
[注意] 本記事はコオロギ食を推奨するものではありません。