【呃逆1】
本日から,「呃逆(あくぎゃく)」の医案になります。呃逆は「しゃっくり」のことで,噦(えつ)ともいいます。
予族中有病霍乱吐痢,垂困。忽発咳逆②,半日之間,遂至危殆③。有一客云,有灸咳逆法。凡傷寒,及久疾得咳逆,皆為悪候,投薬皆不效者,灸之必愈。予遂令灸之,火④至肌⑤,咳逆已定,元豊間⑥,予為 延経略使⑦。有幕官⑧張平序,病傷寒,已困。一日官属会飲,通判⑨延州陳平裕忽言。張平序已属纊⑩,求往見之。予問何遽⑪至此,云咳逆甚,気已不属,予忽記灸法,試令灸之,未食頃⑫ ,中裕復来。喜笑曰,一灸遂瘥。其法乳下一指許,正与乳相直,骨間陷中,婦人即屈乳頭度之。乳頭斉処是穴。艾炷如小豆許,灸三壮。男灸左,女灸右,只一処,火到肌即瘥,若不瘥則多不救矣。(蘇軾⑬・沈括⑭『蘇沈良方』⑮)
①呃逆:吃逆ともいい,しゃっくりのこと。宋代以前には「噦」ということが多い。宋・金・元・明初には「咳逆」といい,明末以降には「呃逆」という。胃気が衝逆して上ることを指す。飲食不節制,食滞停飲,気鬱不暢,胃失和降,または慢性疾患による気衰,脾胃虚寒などにより,胃気が上逆して生じる。
②咳逆:呃逆のこと。
③危殆:危険である。症状が悪化して危篤となること。
④火:艾火。
⑤肌:肌膚。
⑥元豊間:宋代元豊年間(1078~1085)。
⑦経略使:官吏名。国境軍事長官。
⑧幕官:司令官参謀,書記などの官職。
⑨通判:官吏名。
⑩属纊:息が絶えたのが解るように,臨終間際の人の鼻孔に真綿を置くこと。
⑪遽:速。
⑫食頃:食事をする位の時間,朝飯前。
⑬蘇軾:そしょく(1036~1101)。著書に『蘇学士方』。後人が沈括の『良方』とを編集し,『蘇沈良方』として著した。
⑭沈括:しんかつ(1031~1095)。著書に『良方』。
⑮『蘇沈良方』:別名を『蘇沈内翰林良方』という(1705年)。