2022-03-11
本日から,施灸における誤治の医案をご紹介することにいたします。
少々長文になりますが,頑張って読んでみましょう。
一婦壮年性急,夫蕩①不為家,左項生核半載,漸至鶏卵大,堅硬如石,皮外紅絲纏繞,左右脉倶弦数。弦属肝火妄動,数乃脾熱之甚。先用梔子清肝湯平伐肝木,五服後而脉始平。又以清肝解鬱湯数服散其鬱結,次用益気養荣湯調其気血,間服散腫潰堅湯軟其堅腫,外以琥珀膏貼之,調理百日而元気乃復。堅硬已消八,九,止存小核未尽,彼以為愈,止不服薬。後又一載,値夫賭訟未勝②,暴急驚恐,前腫復作,両手脉診細而多数,此陰血虧損,陽火乗之,非前有余症也。又兼胸膈不利,飲食無味,経水③先期過多,形容憔悴不澤,此神傷于思慮則肉脱,意傷于憂愁則肢廃,魂傷于悲哀則筋攣,魄傷于喜楽則皮槁,志傷于暴怒則腰脊不能俯仰,以上倶七情内損症也。法当滋養気血,調和脾胃,益腎清心,開鬱散滞,庶保無虞。彼不肯信,仍前欲服散腫潰堅之薬,欲灸腫上,図内消之。予曰∶此非前比,今則不敢治也。請客医④自制前薬,亦灸患上,并灸肘尖⑤,此為真気虚而益虚,邪気実而益実。後果反加発熱自汗,咳嗽項強,四肢不收,灸瘡無膿,血水不絶,腫亦熾盛,此臓腑已損之候,必不久居也。又月余伝為気急声哑,痰血交出而殁。予嘗見庸医不辨虚実,患家不信,正理偏费,服薬往往多致不救者十有八,九,凡医者,患者倶当省而慎戒之。(陳実功『外科正宗』)
①蕩:放蕩,酒・色に耽っていた。
②値夫賭訟未勝:夫が賭博で裁判事となり敗訴した。
③経水:月経。
④客医:当地の医者でなく,外地からやってきた医者。
⑤肘尖:経外奇穴。肘を屈曲させ,肘頭の先端に取穴する。